津波
2000/06/12
自分は不思議な話、怖い話が大好きです。
これは、幼少時代、今は亡き祖父がしてくれた数々のお話が影響していると思います。
その中の一つで子供心にも、又、成人になってからも見てもいない光景が浮かんできて怖くなる話があります。
祖父の若い頃の話ですが、漁師町に産まれた祖父は必然的に海から最も近いところに家がありました。
ある日、港の堤防で釣りをしていました。
すると、海水が見る見るうちに沖の方に流れて行き堤防の下の海の底が露出してしまいました。
そこには、逃げ遅れた魚が跳ね、カニやヒトデが沢山うごめいたそうです。
「津波が来るぞ。」
どこからともなく、大人達の叫び声がします。
「大変だ。」
と持ってきた荷物はほぽって堤防から夢中で逃げたそうです。
その時、何気なく振り返って海を見て立ち止まってしまったそうです。
そこには、堤防から数メート沖合に家族連れの様な感じの大人2人と子供2人が潮干狩りの様な事をしています。
祖父は、津波のことを教えようと、
「逃げろぉ。津波が来るぞぉ。」
と何回も叫んでいました。
が、その家族連れはその行為を止めないばかりか、ニコニコして手招いています。
祖父が何回も何回も叫んでいると、どこからか、大人が駆け寄ってきて、
「何やってるんだ、馬鹿野郎。死にたいのか。」
と祖父の腕を掴んで山の手の方へ引っ張ります。
「おじさん、あそこに人が居るよ。教えて上げなきゃ。」
「馬鹿な事言っているんじゃない。」
と相手にしてくれません。
逃げてる途中、振り返るとその家族は一列に横に並んで手招きをしていました。
その後、山の中腹まで逃げた時、海水がブワッと言う感じで盛り上がり堤防はおろか海辺の家々を飲み込みました。
「おじさん、さっきの家族は飲み込まれたのかな」
「あんな時にあんな所にいる分けない、居たらこの世のものではないな」
と言われたとき初めて背筋に寒気を覚え鳥肌が立ったそうです。
「爺ちゃんはな、あの時、近くのおじさんが手を引いてくれなかったらあの家族と一緒に海の中に連れ去られたかも知れねえ」
と話していました。
一体、その家族は何者なのでしょうか。
自分は見ていませんが、この話を思い出すと海水の引いた海底で一列に横並びし手招きをしている家族の光景を思い浮かべてしまい背筋が寒くなります。
<としお さん>