野菜人形

2000/05/31


夏、8月も中頃を過ぎお盆になると家々の軒下で迎え火を焚きます。

その傍らに、ナスやキュウリに折った割り箸を足に見立てて差し、四本足の動物の様にして置いてあります。
子供頃、祖父と一緒に迎え火を焚きました。
火をいじれるのでこの頃の楽しみの一つでした。

ある日、日も沈んだ頃、祖父と迎え火を焚いていました。

「おじいちゃんは、ちょっとトイレに行って来るから火を見ててね。」
「うんっ」

1人になり、火を”ジーッ”と見ていました。

ゆらゆら揺れる火に照らされて横において有るキュウリやナスの動物たちが動いているような感じがします。
特にナスなどは、表面がメタリックの様なので炎の揺れが直接反映して横目に見ると動いているように感じます。

何分経ったでしょうか。

「ととととっ」

四本足のナスが、いきなり走り出し暗闇の中に入って行ってしまいました。
呆気にとられていましたが、だんだん怖くなり、

「おじーちゃーん。」

大声で祖父を呼びました。

「どうした。」

祖父の顔を見た途端、安堵の為、号泣してしまいました。

「どうした。泣いてちゃわからん。」

となだめられ、

「ナスが逃げちゃった。」
「えっ」

暫くして、

「あれは、あの世から帰ってきたご先祖様が乗るものだから、きっと、それに乗って帰ったんだよ」

と教えてくれました。

祖父は、私が言った事を本気にしてくれたのかは分かりません。
きっと、猫か何かが持ち去ったとでも思っていたのでしょう。
自分としては、あの野菜の意味をその時初めて知りました。

でも、今でもハッキリ覚えています、ナスに刺さった割り箸の足が、

「ととととっ」

と小刻みに動いて走り去った光景が。