天狗

2000/04/26


伊豆の伊東市にはある伝説有ります。

天狗の詫び状です。

この詫び状は、伊東の七福神の一つ毘沙門天をお祭りする”仏現寺”に今でも存在します。

江戸時代のこの寺のお住職だった日安上人と言う人がいました。
当時、伊東と中伊豆の境にある柏峠の老松に天狗が住んでいて、通行する旅人に悪さをして困らせていました。
そこで、現地に行き祈祷したところ満願の日に松の木の上から巻き物が下りてきました。
それ以来、旅人はへのいたずらが無くなり、

「これは、天狗がお詫びのしるしに落としていったものだ」

と言う事になり、この詫び状が今でも仏現寺にあります。
詫び状の内容は、ミミズが這った様な文字が数十行書かれていて何が書いてあるか分かりません。

この話をまだ知らない5歳位の頃の話です。

当時、私の父親は子煩悩の代表選手の様な人で毎週日曜になると遊園地や公園に連れていってくれました。
伊東は西側に山が連れなっています。逆に、東側は海となります。
その山を越えると隣町の中伊豆へと向かう道があります。
その途中に先の話ででてくる”柏峠”という峠があります。

最初は、そんな遠くに行くつもりはなく山の頂上付近の”馬場の平”と言う広い草原に遊びに行くきました。
”馬場の平”で暫く遊んだ後、何故か分かりませんが父親が

「向こうに歩いていこう」

と西側、柏峠の方に歩き出しました。
天気は良い日で最初は、ピクニックの様な感じで楽しく歩いていました。が1時間も歩くともう動くのが嫌になり、

「おとうさん、おんぶ」

と言っておんぶして貰いました。
その後、暫く進んで行くと少し開けた所に出ました。
そこには、赤じゃけた大きな松の木がありました。
暫く何も言わず、その松を見ていた父親に、だんだん怖くなった私は、

「もう帰ろう。ここはどこ。」

と聞きます。父親は、”はっ”とした様子で

「あっ、うん。帰ろう。」

と言って今来た道を戻りだしました。
子供心にあの松に何か有るのかと思い、おんぶされながら後ろの松の方向を振り返りました。
すると、松の曲がりくねって地面と平行になっている太い枝に何かが座っていました。
人間の様な、猿の様なものです。
私は、父親の背中に顔を埋めて後ろの得体の知れないものを見ないようにおんぶされてそのまま帰りました。

夕方、家に戻って

「おとうさん、あそこはどこなの」
「伊東の伝説の場所で一度行ってみたかったところだよ」

と言う教えてくれました。帰る時に見た、松の木の上の人間の様な、猿の様なものの話をすると

「それは、天狗じゃないか」

と興奮した様子で、紙に標準的な鼻の長い天狗の絵を書いて見せてくれました。
しかし、自分が見たものとはほど遠いものだったので、

「こんなじゃなくて、大きなお猿さんみたいだった」

と言うと

「じゃあ、猿を見たんだ」

と言いました。
表現が上手にできない頃ですから”日本猿がいた”と言うことでその話は片づいてしまいました。
でも、その得体の知れないものは人間の大人ぐらいありました。猿だとするとオラウータン位の大きさになります。
伝説のイメージと実際の容姿は違ってましたが、これが伝説の天狗なのでしょうか。

また疑問に思うのは、何故父親が”そこ”に行ったのか。
取り憑かれたように松を見ていたのかは当の本人も分からなかった様です。
呼ばれたのでしょうか。

私は確信しています。
今では、だんだん人の手が入った所の多いい伊豆の山々ですが、まだ、発見されていない未知の何かがいると思います。

その得体の知れないものは人知れずどこかに隠れて今でも一人で山に入った人達に悪さをしているのでしょう。


<Y.Nさん>