土左衛門

2000/04/24


5年位前迄は、海が好きで毎週の様にサーフィンに行っていましたが今は、海に入る事さえ抵抗が有ります。できることなら海の近くには行きたくありません。

当時、伊豆の東側の海岸でよくサーフィンをしていました。
遠浅の海岸は、まあまあですが人が多く芋洗い状態ですし、それ以外の海岸は良い波が立たないと言うこともあり熱川の海岸に行っていました。

ここは、砂浜でなくテトラポットや岸壁が連なる海岸線ですが、なかなか良い波が上がるし人は皆無ですから警察等に見つかって怒られるまではプライベートビーチの様にサーフィンを楽しめます。
ただ、一つ間違えればテトラポットなどに激突して死亡してしまう危険性が有ります。
勿論、砂浜ではないので海に入ると直接2m位の水位の上に漂うことになります。

その日も、友達と楽しんでいました。海岸線では、観客もいて大ハッスルしてました。
良い波が来るまでボードの上に腹んばいになって後ろを気にしながら岸から50m位離れた位置に漂っていた時です。

上半身を上げたり下げたりしながら後ろを気にしながら見ていたのですが、ふと、ボードの先端の方(岸の方)で視線を感じました。
感じとしては”むずむず”と言う感じがしました。
何気なく前方を見ると”パンパン”に膨らんだ顔がボードの先端の海の直ぐ下に見えます。
自分のボードの下に平行になって仰向けに寝た状態で顔の部分がボードの先端に見える様な形です。

脈拍は上がり心臓が爆発するようです。また、頭は”ジーン”として全身鳥肌状態となりました。
その時、”あっ、土左衛門だ。見ないように移動しよう”と思いましたが体が動きません。
目もそらせないので水死体の顔を凝視しています。

そのうち、水死体に変化が現れました。
ぶよぶよの瞼が徐々に開いて行きます。目と目が合いますが目は離せません。

「おい。岸に連れて行け!」

ニヤッと笑い自分のトランクスをぶよぶよの手で捕まえられました。
かなり抵抗しましたが最後には記憶が飛んでいました。

気が付いた時には岸にいて友達が心配そうに見ている顔が有りました。

「土左衛門が出た。」
「そんな者はいないよ」
「そんなこと無い。確かにいた。」

友達が言うには、沖に流されながら手足を水面に叩き付けている自分が見えたそうです。
ふざけていると思っていましたが、沖への流され方がひどいので追いかけてくれたそうです。
友達は、全速力でパトリングをしますがなかなか追いつけなかったそうです。
やっと追いついた時、自分はぐったりとして静かになったそうです。
その後、今まで流されていたのが嘘の様に海面に静止したようです。
友達に岸まで引いて行って貰った間、うつろな目をしてぐったりとしていたそうです。

「何だ夢か。」

と思い右手を見ると20cm位の真っ黒な髪の毛が指の間に数本からみついています。
自分や友達の髪の毛は潮焼けしていたのでハッキリと自分たちのものでないのが分かります。

「わぁー、髪の毛が付いてるよ。やっぱ、土左衛門がいたんだ」

と半泣き状態で叫んでいました。
そこに集まっていた地元の人たちも指に絡みついた髪の毛をハッキリ見ているはずです。
みんな、気持ち悪がって帰っていきましたから。

あれは、何だったのでしょうか。
自分は、水死体をほんとに見たのでしょうか。
あのまま、友達に救出されなかったらどこに連れて行かれたのでしょうか。

今、まだ海の中には入れません。