老猫

2012/02/26



小学校2年の時の話です。
私の記憶では生まれたときから居た老猫の「いね」が居ました。
家の中では一番中が良くてご飯のとき、テレビを観てるときなど
いつも膝の上に乗ってました。
幼稚園の頃は重たくても可愛いかったので我慢していた記憶があります。

当時、毎晩怖い夢を観ていました。
夢の内容はいつも同じで部屋で一人で寝ていると寝苦しくて起きてします。
すると、窓から黒い影が入ってきて私のよこに近づいてくる。
暫く私の顔を覗いていて、いきなり腕を掴んで

「さあ〜。来い〜。」

と力いっぱい引っ張ります。
私は金縛り状態でどうしようもなく、心の中で

「た・す・け・て...」

と叫び続けると、

「ぎゃおぉぉぉ〜ん。ふぁ〜〜おぉぉ〜」

と「いね」が私の胸の上に乗って黒い影を威嚇します。
黒い影は、入ってきた窓から急いで逃げてゆく...。
その途端、金縛りは解け「いね」が私の顔を覗きこんでいる。
翌朝、母親にいくら説明しても

「寝ぼけてるんだよ。」

と相手にしてくれないんです。

ある晩、寝ているといつものように黒い影が入ってきました。
でも、その晩は黒い影は1つでなく4つぐらいの影が入ってきて私の周りに集まってきました。
首、両手、両足を掴まれ

「さあ〜。来い〜。」「さあ〜。来い〜。」「一緒に...」

の声と同時に体がフワァと浮いた気がしました。
この日ばかりは
「もう、駄目かな。連れてかれちゃうかな。」
と諦めとも悲しみともつかない気持ちで涙があふれていました。
その時です。

「ぎゃ!ぎゃ!ぎゃぉぉ〜」

今までに無いような叫び声で「いね」が黒い影に対して威嚇でなく
飛び掛って行きます。
いとつ、ふたつと黒い影に毛を逆立てて飛び掛る「いね」。
顔は良くわからないが黒い影たちは苦悶の表情で消えてゆきます。
その後、「いね」は私の顔を覗きこむと、窓のところに行き、
外に向かって監視するように座って居ました。
いつもの様に翌朝を無事に迎えました。

「おか〜さ〜ん。おか〜さ〜ん。」

いつもと違うことが起きて居ました。
老猫の「いね」が窓の下で横たわり動きません。
名前を呼んでも動きません。
母が来て、

「いね、いね。昨日まで元気だったのにねぇ。寿命かねぇ〜。」

と優しくさすっていました。

でも、私は「いね」が私を守るために命を亡くしたことを知っています。
きっと、あの時「いね」が来てくれて守ってくれていなければ
連れて行かれていたと思います。
その後、あの黒い影は一度も現れていません。

<MARIさん>


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