非常階段

2009/05/24


都内の某上場企業に勤める者です。
これは私が先日体験したお話です。

世間では、不景気だ、不景気だと言われていますが
ご他聞にもれず当社も莫大な赤字を出しています。
でも、実情は大変忙しく夜中の2時、3時までの残業は当たり前になっています。

オフィスは、22階にあります。
私の気分転換は非常階段のところで階段の中央に開いている
スペース(手すりのところの狭い隙間)から階下を見る事です。
非常階段の場所はオフィス空間とは対照的に無機質で階段の裏側は
鉄板がむき出しています。また、照明も人感センサーで
通常は真っ暗です。
私のいる22階から下を見ると下へ行くほど狭く小さく見え
余り人が行き来せず下の階の明かりが見えるときなどは
遥か彼方に希望の光が灯っているようで救われた気持ちになれます。

その夜も残業で0時を越えていました。
いつもの様に下の階を除くと10階ほど下に明かりが点いていました。
手すりに捕まる手も見えます。

「カツ〜ン、カツ〜ン」

靴音がします。
5階下の明かりが点きました。
そのまま除いていました。
あの女の人...。何か不自然なんです。
茶髪のボーイッシュな女の人、耳の金色ピアスが光っています。
きれいな横顔の女の人、「良いなぁ〜」などとボンヤリと
見入っていました。
その女の人がこちらを振り向きそうなので、ばつが悪いので
顔を引っ込めました。

「うん?」

よく考えるとおかしいのです。
お分かりの様に上からのぞくのですから下の人は手しか見えないはずなのです。
あの見え方は、階段と平行に横向きで歩いていなければならないのです。

「えっ。見間違いか。」

もう一度、下を除きました。

「うわぁ〜」

覗き込んだ真下に(ほんの50センチ)黒目だらけの目を見開いて
ブラックホールの様な口を大きく開いた顔があったのです。

一目散に廊下に通じる鉄の扉を開こうとするのですがなかなか開かない。
「カン、カン、カン」

階段を駆け上る靴音が猛烈な勢いで上がってくる。
半狂乱で鉄の扉を押したり引いて足りしているが開かない。
もうだ駄目だと思ったとき、

「先輩〜い。早くしてくださいよぉ〜」

職場の後輩が扉を開けその隙間から覗き込んでいました。

私がこの場所に来てから10分くらいしか経っていないはずでしたが
既に1時間が過ぎ、打ち合わせが出来ない後輩が待ちきれずに呼びにきてくれあたのでした。

あの女、誰なのでしょうか。
その手のうわさはない様です。
今、非常階段は行かない様にしています。



<一流会社員 さん>