たぬき

 


私の祖母の子供時代の話です。
私が小学校低学年の時、祖母の家に泊まりに言った時よく聞かされました。
「たぬきは本当に化かすんだよ。気をつけないと大けがをすることになるよ。おばあさんは、子供の頃たぬきに化かされたんだよ。」

祖母の子供時代は、町から離れたところに住んでいました。ある日、町へ買い物を頼まれた祖母は歩いて2時間位掛かる町へ向かいました。町での時間はあっというまに過ぎてしまいました。この時間から帰ると途中夜になるので急いで家に向かいました。

案の定、山の中程で日が沈み、辺りは暗くなってきました。当時は、外灯もなく民家も少ない山道を歩かなければならないのでしばらくすると漆黒の闇に包まれました。祖母は、道の痕跡を辿って家路を急ぎました。だが、歩いても歩いても同じところをぐるぐる回っている様でいつまで立っても家の近くにも来ません。だんだん焦ってきます。

そのとき、50M位離れたところに明かりが見えました。明かりのところには誰か人がいるはずだと思い明かりの場所に向かって歩き始めました。しかし、祖母が歩くのと同じようにその光も移動して行く様でなかなか明かりのところに行けません。祖母は、どうしても明かりのところに行きたくなり走り始めました。

だが走っても走っても明かりのところに行けません。でも、どうしても明かりのところへ行かなければと焦ります。走って走って、これでもかと走りました。そのとき手に持っていた今日買った荷物が落ちてしまいました。祖母は、急いで荷物を拾い上げ再度明かりの方をみると2M先は崖になっていました。この荷物が落ちなければ祖母は、崖から転落しあの世へ行ってしまったでしょう。

その時、ふと横に何かの気配がして見るとたぬきが祖母の方を見て笑っていたそうです。
本当に動物のたぬきが笑っていたそうです。

そのときの笑い顔は今でも思い出すたびに震えがくると言っていました。