話し声

2002/06/07


これは私が小学三年生生の頃に起こった不思議な出来事です。

夏休み、私は例年のように母の実家の広島に行きました。
母の実家には夜に着き、私は長旅の疲れでその日はすぐに眠ってしまいました。
そして次の日の朝、私は誰かの話し声で目を覚ましました。
隣にいる母も兄も眠っていました。
私は祖母か祖父が起きているんだろうと思い、居間へ行きました。
しかし居間には誰もいませんでした。時計を見るとまだ4時でした。

私はすっかり目が冴えてしまって 寝なおす事が出来ず、台所の勝手口からネグリジェのまま散歩に出掛けました。
外はまだ薄明るく、周りは薄い霧がかかっていました。するとまたさっきの話し声が聞こえてきたのです。
女の人の、ささやくような声でした。
何と言っているかは分からなかったけれど、その声は今まで聞いたこともないくらい繊細で透き通った声でした。
しばらく歩いて公園をさしかかった時、またその声が聞こえてきました。
しかもさっきより大きく聞こえたのです。
私は何となく公園の中に入りました。
するとまた、今度はハッキリとその声が聞こえましたました。
しかも私のすぐ真後ろで。

「声をちょうだい・・声をちょうだい・・声をちょうだい・・・」

確かにそう聞こえました。
私は恐くなって必死に走って祖父の家へ戻りました。
すぐ後ろから誰かが追いかけてくるような気配を感じました。
勝手口を開けて家の中に入ると、祖母が朝食の支度をしていました。
私は息を弾ませてさっきまでの話を祖母に話しました。
すると祖母は驚く様子もなく、私の肩に塩をかけてくれました。

祖母の話によると、その女の人は「阿佐美さん」と言って、 とても声が綺麗で歌がうまく、歌手になるために毎朝あの公園で発声練習をしていんだたそうです。
けれど原爆が落ちて、阿佐美さんはあの公園で焼け死んでしまいました。
よほど無念なのか、この時期になると、朝、あの公園から歌声が聞こえたりするのだそうです。
私と祖母は公園の方角にお参りをしました。

私は現在高校生になりましたが、今だにあの公園には恐くて近づけずにいます。



<yukkoさん>