あぜ道

 


夏の夜は、家から少し離れた田んぼのある秘密の場所に蛍を捕りに行きます。

田んぼのあぜ道の手前の舗装された道まで車で進み車を止め、暗い田んぼ間のあぜ道でじっとしています。
よく見ると、小さい光の玉があちこちに見えます。 私の家族(妻、3歳の長男)、兄の家族(妻、小学校3年の娘)と蛍狩りに興じていました。

ある程度、採り終えると場所を変える為にあぜ道を歩いて移動します。蛍が逃げるので電灯はもって行きません。暗い道ですが、田んぼの水がきらきら光っているのであぜ道と田んぼの区別はつき問題なくあぜ道を歩いて移動ができます。もちろん、私の息子はま小さいので手を引いています。しばらく移動しながら蛍を探すた為にあちこち見回しながら進んで行きます。そのうち、私たちの家族と兄の家族との差が10m程離れた時(私たちが前を歩いていた)

「おい、手をはなすな。○○がたんぼの中に落ちているぞ」

と後ろの兄が叫んでいます。私は、息子と手を繋いでいるので”なに言ってんだ”と思いながら後ろを振り返りました。
すると、私と兄との中間のあぜ道の脇の田んぼの中に子供が立っています。と言うかよく見えないのですが立っている様に見えます。目を凝らしてみてもはっきり見えないが子供の様に見えます。さっき歩いてきたときは居ませんでした。
私達は今来た道を逆に戻り、兄達はそのまま歩いて来ました。

だんだん両者とも子供に近づいてゆきます。年の頃は、4,5歳位の男の子の様です。その間、私の家族と、兄の家族はその子供を確認しながら歩いてきました。ずっとその子を見ながら近づいて行きましたが近くになり全員がちょっと目を離した時にその子供は消えていました。

「あれ。ここにいたよな」
「居た、居た。確かにいたよ」

みんな口々に言い合いました。

「今日は、もう帰ろう」

気味が悪いので私の息子を抱き上げて車に戻りました。 途中、私の息子が

「行っちゃたね」
「何が?」
「お友達」
「どこに行ったの」
「むこうの道に居ちゃったよ。ほら、あそこに居るでしょ」

この話を聞いてみんな一斉に、田んぼを挟んだ向こう側のあぜ道に見ました。するとさっきの子供のような人影が5つ、6つと現れているのを目撃しました。私たちは、夢中で車まで走って逃げるようにその場を離れました。息子は、

「ばいばい」

等の言葉を良いながら後ろの窓から外を眺めています。 妻は、泣きそうな声で、

「○○ちゃん、後ろ見ないで」

と言って息子を自分の体に抱き寄せておびえていました。