お葬式の日

2002/03/01


ちょうど10年前の冬、母方の祖父が亡くなった。

私はちょうどその時友人達とスキーに行っており、 家になど連絡を入れないで遊び回っていたのでその訃報を知らなかった。
どうしても私と連絡がつかなかった両親は家に置き手紙だけを残して急いで帰郷した。
次の日に何も知らずに帰宅した私は慌てて旅支度をし直し、その日に祖父の家へと 向かった。

新幹線の窓際に座りながら、後でどんなに怒られるかと思うと憂鬱になった。
その新幹線は大宮を過ぎると、次の仙台まで止まらなかった。
大宮を出てから10分ほどしても幸い隣の席には誰もおらず、ゆっくりと座ることが できると思ったら急に眠気がしたので目を閉じて楽な姿勢で座り直した。

それからどれくらい経ったかは良く覚えていないが、突然隣の空席側の半身が総毛立った。
一瞬 「なんだ?」 と思ったが体が硬直して動かなかった。
するとどこからか線香の香りがフワッと流れてきて、誰かが私の隣の席に座る気配がした。
シートが少し沈むのさえ感じることが出来た。
その瞬間 「あ、おじいちゃんだ。」 と心の中で呟いていた。
なぜそう思うのかは自分でも分からないが、確かに祖父の気配を感じた。
「迎えに来てくれたんだ。ごめんねすぐに行けなくて。 お葬式には間に合わなかったんだね。今から行くから待ってて。」
そう心の中で言うと、スーッと硬直も、鳥肌も、線香の香りも祖父の気配も消えた。
ゆっくり目を開けると隣には誰もおらず、今のは夢だったのかと思った。
陽が落ちる前に祖父の家に到着した。
案の定母の怖い顔が待っていたが、お小言の前にまずは仏壇のお骨に手を合わせようと 仏間に入っていったとき、あの線香の香りがした。

やっぱりあれは夢じゃなく、祖父が隣にいたんだと今でも確信している。


<Yumikoさん>