兄貴が来た

2001/08/10


中学の時、同級生にAが居ました。
Aは野球部で陽気な性格でした。
同じ組になった2年生から仲が良くなりました。
それまでは知らなかったのですが、ある日、Aが、

「あのさぁ。今日、チョット付き合って貰いたいんだけど..」

と言って来ました。
即答でOKしましたが内容は、今夜この中学校に忍び込むというものでした。
理由を問いただすと、

「実はさぁ....」

と話してくれた内容は、Aには4つ年上の兄貴がいましたが中学の時不慮の事故で校内で無くなったそうです。(理由は聞かなかった) その兄貴が、噂によると死んだ当時の教室に夜の10時を過ぎると現れ黒板をジーと見詰めていると言うことでした。
この噂は自分も先輩に聞いていましたが、まさかAの兄貴の話だとは全然知りませんでした。

Aは、兄貴にに一目会いたい、幽霊でも良い、話したい。と言う願いは有りましたが、 今までは何となく躊躇していた。が、”自分と一緒なら”と決心したそうです。
その晩、お互いに

「相手の家に行って勉強する」

と親に言って家を抜けだし用務員のおじさんに見つからないように昼間の内に鍵を開けておいたトイレの窓から進入して Aの兄貴が出現すると言う教室、3年C組に行きました。
シーンとした真っ暗な教室の一番後ろの席に座って黒板の方を2人でジーッと見ていました。
お互い何も言わず、ただ、黒板を見つめていました。
10時を過ぎて、何十分経ったでしょうか、 いっこうにAの兄貴は現れません。
2人は、顔を見合わせて無言で

「帰ろうか?」

と言い合いました。
その時、前方で 「カタンッ」 と小さな音が聞こえました。
2人は同時に黒板の方を見やりました。
そこには、真っ黒な黒板が見えるだけです。
でも、何故か悲しくなり涙が止まらなくなりました。 Aも同じです。
2人はひとしきり泣いたあと教室を出て学校をあとにしました。

「何で、涙が出たんだろう」
「わかんないけど、無性に悲しくなった。」

理由は分かりませんがお互い無性に悲しくなり涙が止まらなくなり切なくてどうしようも なかったのです。
でも、教室を1歩外に出るとその感じが嘘のように消えてしまいました。
お互い言いませんでしたが、きっとAも ”兄貴が来たんだ”と思っていると思います。
それとも違った、ものだったのかは定かでは有りません。

<kobaさん>