おじいちゃん、起きたよ。

2001/08/07


以前から身内のに不幸があると夢を見たり、お葬式で何か体験する私と、5歳になる娘の話です。

去年の夏に、癌で父(私の)を亡くしました。
その年の春に入院し、娘の幼稚園も夏休みに入っていました。
父の危篤と言う知らせを受け娘と2人で病院へ向かいました。
病院では父のベットの脇には、母がオロオロしています。
その回りでは、担当医、看護婦さんなどがせわしなく動き回っています。
ちょうど、意識がなくなって昏睡状態となっていました。
私と娘は、ベットの近くに行きたいのですが作業のじゃまになってはいけないとしばらく、入り口のところで立っていました。

「様態が変わったら、呼んでください。」

と担当医の先生が母に告げ部屋を出ました。
その時、担当医の先生に簡単な会釈をしてすぐに父の元へ向かいました。

「おとうさん!」

父を呼びますが、目は閉じ口には酸素吸入の管が入っていて苦しそうに息をしているだけです。

「今夜が山だって....」

母がポツリと一言いいそのまま沈黙してしまいました。
娘は、初めての状況にもの凄い不安な顔をして私から離れません。

「おかあさん。少し外に出て休んできて。」

と言って私と娘は病室に残りました。
病室内は、父の呼吸の音と酸素吸入器の音のみ響いています。 その時、

「おじいちゃん、起きたよ。」

少し、ベットに背を向けて片づけものをしていたんのですが娘の声に振り向くと昏睡状態の父がベットの上に上体を起こしてニコニコしながら娘の手を握っています。
私は、担当医の”様態が変わったら...”を思いだし、娘を病室に残して夢中で ナースステーションに向かいました。
今思えば、ベットの近くのコールブザーを押せば良かったのですが気が動転していたのでしょう。

「すみません。501号室の○○ですけど、父親の意識が...」

等を告げて病室に戻りました。
戻った病室では、先ほど起きあがっていた父は最初と同じようにベットに横たわり昏睡状態でした。
先ほどと違うのは、娘が落ち着いた様子でベットの横の椅子に座っておとなしく父の方を見ながら、

「おじいちゃん、また、寝ちゃった。」

その後、担当医の先生と共に看護婦さんが来たのですが先ほどと同じ状態なので きっと、病人の家族の心理状態から幻覚を見たとでも思ったのでしょうか、

「また、何かあったら...」

と黙って戻って行きました。
暫くして、母が病室に戻ってきましたが、先ほどの病室での出来事は母には黙っていました。 すると、

「おじいちゃんは、お空の星になるんだって。そしてねぇ、いい子でいてねっていってた。」

と娘が母と私に、父に貰ったと言うキャンディを見せてくれました。
確かに病室に有ったキャンディでしたが、5歳の娘には絶対とれない高いところに設置してある棚の上の荷物に入っているものでした。
母が、自分で食べようと思って持ってきたものでしたしたが、まだ、開けていないはずのものでした。

「じゃぁ、おじいちゃんが取ってくれたんだね。」

と娘を抱きしめながら母は泣き崩れてゆきました。
それから数時間後、父は亡くなりました。
最後のお別れなので娘を抱き上げて父の顔の近づけると微かに微笑んだ様に感じました。

<さえみさん>