樹海

2001/01/11


これは去年の話です。

皆さんは樹海をご存知ですか。
今や自殺の名所として知られている「あの」樹海です。

去年の夏、友人ら3人と樹海近郊へ行きました。
宿泊していた宿から徒歩2分程のところに、青木ヶ原樹海遊歩道入口があります。
誰でも安心して歩けるように整備されていて、野鳥の森公園までは3分程で行けました。  
樹海遊歩道は風穴・氷穴方面、竜宮洞穴・紅葉台方面、こうもり穴方面などのコースがありました。
西湖・精進湖・本栖湖から大室山に広がる東西約12km、南北約8kmの文字通り樹木の海です。
一度踏み込んだら二度と出てこられないとか言われていますが、今では遊歩道も整備されていて、森林浴・ハイキングやオリエンテーリングなど、数多くの人が利用する憩いの場所となっています。

私たちも、そんな気楽な気分で行ったのです。  
現地に到着して宿でひと休憩した私たちは、少し散歩でもしようということになり、樹海の遊歩道入口からこうもり穴方面へトコトコと歩いて行きました。
まだ夕刻前だったので、比較的周囲も明るく、ゾッとするような雰囲気など微塵もありませんでした。  
ふと、1人の友人が、おなかの調子が悪くなってきたのでトイレへ行きたいと言い出しました。
早速公衆トイレを探しますが見当たりません。
しばらくして、草むらの陰に、トイレの表示のある看板があったので、その方向へと歩いて行くと、ひと気のないところにポツンとあるトイレを見つけました。
私と友人がトイレに入って、もう1人の友人は外で待っていました。  
やがてトイレから出た私たちは、外で待っているはずの友人の姿がないのに気づきました。

私たちは何かあったのでは?

と思い探そうとした瞬間、草むらからその友人が現れたのを見てホッと胸を撫で下ろしました。

「お前何やってたんだよ」

と私が言うと、友人は

「いや、別に・・・。色々と見てみたかったんだよ」

と言うだけでした。
それから1時間くらいして、もう宿に引き返そうということになりましたが、その友人だけは

「まだ色んなところを歩いてみたいんだよ」

と言うのです。
明日にすればいいじゃないかと言ったのですが(2泊3日だったので)友人は先に戻っててくれと譲りません。
仕方なく私たちは先に宿に戻りました。  
やがてその旅行が終るまで、その友人だけが一人だけで行動するケースが多かったのです。
もともと旅行の計画を立てた張本人だった彼の身勝手な行動に対して、私ともう1人の友人も若干腹を立てていました。
しかし何はともあれ、私たちは無事に東京へ帰ることが出来ました。  

それから1ヶ月後。その友人が行方不明になりました。
彼の母親とそのことについて初めて話をさせていただいた時、

「あの子家を出て行く時、ちょっと下見をしなきゃならないところがある、と言ってたんですよ・・・。でもそれっきりで・・・」

と涙ながらにおっしゃっていました。
その時私は思ったのです。

・・・申し訳ないんですがお母様、それは違います・・・違うんですよ・・・私たちと一緒に行った時が下見だったんです・・・。
ああ、くそ、なんてこった!戻って来てくれ!

追記:彼が1人で泊まった宿の宿泊者雑記帳には彼のこんな言葉がありました
(後世にそれを残すと、宿泊された方々に影響を及ぼし兼ねないと判断され、そのページだけ破って宿のご主人が親族の方に送ってくれたものです)。

ある日僕が1人で散歩していた
するとサラリーマン風の男が紐を持って歩いていた
僕と目が合ったがお互いに何も言わなかった
僕も明日、ああやって誰かと目が合って その人も僕のような態度をとるのだろうか


<きょうまさん>