霊感を得る夢

2000/11/19


奇妙な現実感を持つ夢を見ることは誰でもときどき経験すると思います。

僕のそれは10年近く前、高校生の時に見たものでした。
僕と友人、2人で旅をしているのです。
この相棒は僕の知らない人でしたが夢の中では旧知で、とても親しくしていました。

地方に出かけたとき、思いがけなく日がとっぷりと暮れて宿を探すことになりました。
事前にホテルを予約しておくべきだったのにと 不満に思ったことを覚えています。
見つかったのはうらさびれた民宿で 軒先に大きな提灯が下がっていました。
ところが、実際に出かけて話をしたところ 宿の主人らしき白髪の親父は満員だと主張し我々を追い返そうとするのです。
こちらとしては、外が真っ暗なこともあるし他に宿を探すのも大変なので、しつこく食い下がります。
それに、満員だといいながら 凄く静かで、ひとけが一切感じられないのです。
軒先からは、親父一人、あるいはその家族だけしか住んでいないような印象を受けるのです。

「本当に満員なんですか」

、と僕は尋ねました。
だってちっとも音がしないじゃないかと。
親父は今宴会の最中なんだと答えました。
その途端、まるでシンセサイザーのスイッチを入れたかのようにわざとらしい

「ザワザワザワ」

という声が聞こえて一瞬で消えました。
そこで親父は言いました。

「空きがないことはないが いい部屋ではない。それでもいいのかと。」

僕たちは承諾しました。

連れて行かれたのは離れの8畳ほどの部屋で小さな裸電球が下がっていました。
夜らしく、空気がじっとりと湿っています。
薄暗いのは電球のせいだろうと僕は思いました。
ここには出るんだ、と親父は言いました。
むかしここでひとが殺されたのだと。
彼はそれ以上詳しいことを話さなかったのですがあるいは僕が失念したのかもしれません。

夢の中だからどうかしていたのでしょう、 僕は自分に霊感はないから大丈夫だと答えました。
これは真実ですが、実際には殺人の起きた部屋に寝泊まりすることなど気持ち悪くて出来ません。
ただその時は、何の疑問もなくそう答えたのでした。
ところが、親父が去り、布団の中に身を横たえていると目の前がくらくらと回りだし しまいにもの凄い吐き気が襲ってきました。
めまいで立ち上がろうとしても出来ないほどです。
僕は霊感はありませんが、こうした症状に関しては少なからず体験談を読んで知っていましたから これがそうか、と思いました。

では、僕の中にもほんの少しながら 霊感というものがあったに違いない、そして、本物の霊は洒落にならないものだ。
こんな不吉な場所には やはり近寄らない方がいいのだと実感しながら助けてくれ、助けてくれと呻き続けてそのまま目を覚ましました。
夢を見たあとも、特に変わったことはありませんでした。
ただ、肝試しや心霊スポットに対しては 用心深くなりましたが。
まあ日頃から、怪談や心霊体験談が好きだったのであのような疑似体験的な夢を見たのだろうと、それはそれで一つの教訓になったからよかったと ついこの間まで、ずっと、思ってきたのです。

ところが最近になって、それが思うほど 単純な夢ではなかったということを知りました。
バイト先で知り合いになったMさんという人がいます。
詳述は避けますが、深夜のバイトだったので あるとき二人で恐い話をしたのでした。
僕は霊感のある人に興味があるのですがそういう類の話を嫌がる人もいますのでそれとなく水を向けてみたのです。
Mさんは自分で霊感があると言いました。
僕が、自分にはちっともないんです、と答えると Mさんは

「俺も昔はなくて、でもあるきっかけで霊感を持つようになった」

と言うのです。
変な夢を見てからだ、と彼は続けました。

夢?

Mさんの語った内容は、僕のそれに驚くほど似ていて 僕は愕然としました。
Mさんもやはり、旅をしていて宿に入り 離れの部屋でめまいを起こしていたのです。
しかもそれは、十年ほど前の話でした。
恐ろしいほど奇妙に一致しているのです。
僕が旅をしていたのは、もしかして Mさんとだったのかもしれません。
しかし、僕はそのことに確信は持てませんし二人の夢も、微妙には食い違っているのでした。
Mさんは、二人ではなく三人で旅行していたというし民宿が静まり返っていたことは覚えていないし離れの部屋からは、あんまり苦しいので 縁側へ向かう窓をあけて庭に出、 そこで目を覚ましたといいます。
裸電球はともかく、提灯が下がっていたことを Mさんもはっきりと覚えていました。

「あれに文字が書いてあったの覚えてる?」

そうMさんは僕に尋ねました。
いいえと僕が答えると

「知らないほうがいいよ」

と言って 絶対に教えてくれようとはしません。
いったいこの符号は何を意味するのでしょう。
僕が気になるのは、僕の夢の話を切り出したときMさんはまったく驚かなかった(ように見えた)こと、 いまたに確信は持てませんが、 あの相棒がMさんだったとしてどうやら仲間はもう一人いるらしいこと、 そして何より

「思念の塊を感じることが出来るようになった」

Mさんに対し、僕には霊感の萌芽がなかったこと。
二人の行動が微妙に食い違っていることが 結果を分ける要因になっているのでしょうか?

僕にはいまだに、霊感がありません。



<円盤人さん>