くまさん

2000/10/20


みんなと別れてから一人、家路を急いでいました。

商店街を越えると、シーンと静まり返った住宅街になります。
時間は、夜に10時頃だったと思います。
街灯の下や道路に面した家の前以外は、真っ暗です。
明かりと明かりの間の暗闇は急ぎ足で駆け抜けました。

そろそろ家に近づいてきたのですが、まだ距離は有ります。

「怖いと思うから怖いんだ。歌でも歌って帰ろう。」

と思いつきました。

「あるぅ〜日、森の中、くまさんに、出あぁ〜た...」

何回も同じフレーズを繰り返し繰り返し歌っていました。
あと少しで家です。

その時、古い大きなアパートの前を通っていました。

「あるぅ〜日。」
「あるぅ〜日。」
「森の..、 えっ」

私の歌に合わせて歌っている声がします。
小さな女の子の声の様です。
今と通っているアパートに住む子供が歌ってるのだろうと思いました。

「チョット、歌声がおおきすぎたかなぁ。」

と思い少し反省しながらアパートを見るとアパートの全ての部屋は真っ暗です。
よく確認しましたが、女の子などどこにもいません。

「気のせいかな。」

と気を取り直して家路に向かいます。
今度は、周りに迷惑がかからないように小さな声で、

「あるぅ〜日。」
「あるぅ〜日。」
「森の中。」
「森の中。」

やはり一緒に歌っている声がします。
物凄く怖くなり、一目散に逃げようとした時、

「何で、途中でやめるんだよ〜。」

と男の不気味な だみ声が聞こえてきました。

又、走っている私の後ろから、同じだみ声で、

「”くまさんに。” だろう。」

などと怒りながら、駆けよってくる足音が頭の中に響いていました。


<ponさん>