異形のもの達
2000/10/18
「あぁ。あれ。よく見るよ。」
あっさり喋る浮浪者。
初めてみる異形のもの達。
この話は、よく飲みに行く副都心のある町のことです。
べろべろに酔って、同僚と別れた後、記憶がとぎれていることがままあります。
記憶は、断片的に残っているのですが、ある時間、ある場所から今いる自分の意識までの間、真っ白な(真っ黒が正しいかも知れない。)部分が多くあります。
その中の、断片的に覚えている記憶の中で汚い人、”浮浪者”の人と話している記憶がありました。
しらふの時は近づくのも嫌ですが、泥酔時は仲良しの友人の様になるらしいです。
その時人たちといる時は、いつもと違う目線からその町を、道路を、歩道を見る形となります。
近くを通り過ぎる人たちは、自分の目線からは、足しか見えません。
その為、余り周りを気にせずその場所にいることが出来ます。
酒の勢いもあって気にならないのかも知れません。
「ドンッ」
鈍い大きな音がします。
車道を見ると血だらけで横たわり、苦しそうにもがいている男性がいます。
「たっ、大変だ。」
自分は、立ち上がり周りの通行人に車道をアピールするのですが、胡散臭い顔をされるだけで相手にしてくれません。
再び、車道に目をやると、先ほどの事故の場所に男性はいません。
「兄ちゃん、まあ、座んなよ。」
「今、轢かれたぞ。」
私の訴えにその浮浪者は、
「よく見るよ。ほら、あそこ見てみな。」
指示された方を見ると、横断歩道の橋に血だらけで立っている老人。
注意してみると、歩道にも異形のもの達がうようよしていました。
過ぎゆく人たちに何かを訴えているもの。
ランドセルを背負った小学生。
足が変に曲がった、黒い犬。
「目を合わせんなよ。あれらは、しつこいから..。」
自分は、妙に納得して余り他を見ないように、浮浪者達と会話し朝を迎えました。
朝を迎えたと言っても起きたときは自分の家の布団の上でした。
どの様に帰ってきたか記憶がありません。
夕べの出来事は夢だったかも知れません。
しかし、鮮明に残っている異形のもの達の姿。
何となく、鼻に残っている浮浪者の刺激臭。
やはり、昨夜の出来事は本物と思われます。
その日、確認のために再度その場所を訪れましたがいつもと変わらない町があるだけでした。
しゃがんで目線を落としても同じです。
昨夜の浮浪者を探そうとしましたが、その顔は全く覚えていませんでした。
不思議な体験でした。
<兼さん>